待機6時間、付帯作業のタダ働き。これは業界全体の話で、長距離ドライバーなら一度は経験しているはずです。むしろ「一度」ではなく「毎回」という人のほうが多いでしょう。
この「当たり前」が変わるかもしれない制度改正が決まりました。倉庫約款の60年ぶりの大改正です。施行は2027年4月。
正直なところ、「また制度が変わるのか」という冷めた気持ちもあります。制度が変わっても現場は変わらない、というのをこの30年で何度も見てきたからです。ただ、今回の改正はドライバーの待機時間と付帯作業に直接関わる内容なので、知っておいて損はありません。
倉庫約款改正とは何か
まず「倉庫約款」という言葉自体がピンとこないドライバーも多いと思うので、簡単に説明します。
倉庫約款というのは、倉庫業者が荷主との間で使う標準約款(取引ルールのひな形)のことです。国土交通省が定めていて、倉庫会社はこのルールに基づいて荷主と契約します。
この約款が約60年ぶりに改正されることになりました。ポイントを3つにまとめます。
- 倉庫会社が荷待ち時間に対して正式に料金を請求できるようになる
- 付帯作業(仕分け・検品・ラベル貼りなど)にも正式な料金テーブルが設定される
- これまでドライバーに無償でやらせていた作業にコストが発生する仕組みになる
つまり、「タダだったものに値段がつく」ということです。荷待ち時間や付帯作業にコストがかかるようになれば、荷主側が「待たせるとお金がかかるから改善しよう」と動く可能性があります。施行は2027年4月です。
現場のリアル — 「呼ぶまで外で待っておけ」

制度の話だけでは実感が湧かないと思うので、私が実際に経験していることを書きます。
倉庫に荷物を届けに行くと、到着順ではなく倉庫側が決めた順番で卸し作業が行われます。到着したらまず受付に行って、番号を渡される。「あなたは何番目だから、呼ぶまで外で待機しておいて」と言われる。これが日常です。
問題は、この「外で待機」の時間です。
私自身は今の会社が荷主との関係に恵まれていて、待機は3時間以内に収まることがほとんどです。ただ業界全体で見ると、待機時間は6時間から8時間が普通という現場も少なくありません。朝に着いて、昼過ぎまでトラックの中でひたすら待つ。エンジンをかけっぱなしにするわけにもいかないので、夏は蒸し風呂のように暑く、冬は凍えるほど寒い。スマホをいじるか寝るかしかやることがない。それが6時間、8時間と続きます。
この間、もちろん待機に対する手当はゼロです。拘束時間としてはカウントされますが、待機料が運送会社に支払われることはほぼありません。
ドライバーの労働時間には法律で上限があります。2024年4月からは年間960時間の時間外労働上限が適用されています。待機で6時間使えば、その分だけ走れる時間が減る。結果として、荷物を運べる量が減り、会社の売上にもドライバーの収入にも直接響く。
待機時間は「何もしていない時間」ではありません。ドライバーの貴重な労働時間を、荷主の都合で奪っている時間です。これが待機時間の本当の問題であり、ドライバー不足が深刻化している原因の一つでもあります。
付帯作業のタダ働き — 断ると「会社に電話するぞ」

待機時間だけではありません。契約にない付帯作業を無償でやらされるという問題もあります。
本来、ドライバーの仕事は荷物を運ぶことです。トラックに積んで、指定された場所まで届ける。これが運送契約の中身です。
しかし現場では、荷物を届けた先で「ついでに仕分けもやってくれ」「検品も手伝ってくれ」と言われることがあります。倉庫内の作業であり、本来はドライバーの仕事ではありません。
私の場合、今でも荷主2社くらいのところで付帯作業をやらされています。仕分けや検品など、契約にはない作業です。もちろん追加料金は出ません。
断ろうとすると、こう言われます。
「会社に電話するぞ」
これは事実上の脅しです。荷主が運送会社に「おたくのドライバー、言うこと聞かないんだけど」と電話すれば、次から仕事を切られるリスクがある。だからドライバーは従うしかない。会社も「すみません、やらせます」と言うしかない。
力関係が圧倒的に荷主側に偏っている以上、ドライバー個人がどれだけ「おかしい」と思っても、構造的に断れない。この力の非対称性こそが、物流業界が長年抱えてきた根本的な問題です。
トラックGメン制度が始まってからも、この状況は大きくは変わっていません。「制度ができた」と「現場が変わった」の間には、大きな溝があります。
この改正で何が変わる可能性があるか
① 荷待ち時間の有料化
倉庫会社が荷主に料金請求できる根拠ができる。→ 荷主に「待たせるとコスト」の意識が生まれる可能性。
② 付帯作業の料金明確化
仕分け・検品・ラベル貼りに正式な料金体系。→ 「タダ働き」が法的にもおかしいと示せる。
③ 力関係の変化(の可能性)
「約款に書いてあるから」が交渉カードに。→ ただし末端まで届くかは別問題。

今回の倉庫約款改正で、具体的に何が変わり得るのかを整理します。
荷待ち時間の有料化
倉庫会社が荷主に対して、ドライバーの待機時間を正式に料金として請求できる法的根拠ができます。
これまでは「待機は仕方ない」で済まされていました。約款に明記されることで、倉庫会社が料金を請求しやすくなります。荷主側にとっては「待たせるとコストがかかる」という意識が生まれる可能性があります。
コストがかかるなら、バース(荷卸し場所)の回転率を上げよう、予約制にしよう、という改善の動機になり得ます。
付帯作業の料金明確化
仕分け・検品・ラベル貼りなどの付帯作業にも正式な料金体系ができます。
「ドライバーにタダでやらせていた作業」にコストが発生するようになれば、荷主は選択を迫られます。自前で人を雇って作業するか、追加料金を払って倉庫会社やドライバーに依頼するか。どちらにしても「タダ」ではなくなる、という点が重要です。
ただし、楽観はできない
約款が変わっても、実際に料金を請求できるかどうかは別問題です。
倉庫会社も荷主との取引関係があります。「約款に書いてあるから請求します」と強気に出られる倉庫会社がどれだけあるか。荷主に「じゃあ他の倉庫を使う」と言われたら終わりです。結局、力関係で「今まで通り」になる可能性は十分にあります。
また、倉庫約款は倉庫会社と荷主の間のルールです。ドライバーの待遇が直接改善される保証はありません。倉庫会社が待機料を受け取っても、それが運送会社に還元されるか、さらにドライバーの手当として支払われるかは、また別の話です。
正直に言うと、もう一つ怖いことがあります。仮に荷待ち料金や付帯作業料が正しく運送会社に入ってきたとしても、会社が「もともと労働時間の中に入っていた」という言い訳をして、ドライバーの手取りに反映しない可能性です。「今まで払ってなかったけど、実は経費として計上していた」と後付けで言われたら、結局ドライバーの給料は変わらない。お金の流れが透明にならない限り、制度だけ変わっても意味がない。これが現場の率直な不安です。
制度は正しい方向に進んでいます。でも、制度が変わっただけでは現場は変わらない。これは2024年問題のときにも感じたことです。
まとめ — 期待はしたい。でも現場が変わるかは荷主次第
倉庫約款の60年ぶりの改正。ドライバーの立場からすると、「やっと動いてくれたか」という気持ちと、「本当に変わるのか」という気持ちが半々です。
制度としては正しい方向に進んでいると思います。待機時間や付帯作業に正式なコストがかかるようになれば、少なくとも「タダ働きが当然」という空気は変わるかもしれません。
ただ、最終的に現場が変わるかどうかは荷主の意識次第です。
- 荷主が「コストがかかるなら待機時間を減らそう」と動くか
- 倉庫会社が実際に料金を請求できるか
- その料金が運送会社・ドライバーに還元されるか
この3つがすべて揃わなければ、ドライバーの現場は変わりません。
施行は2027年4月。まだ約1年あります。私たちドライバーにできることは、この改正の内容を知っておくこと。そして、自分の会社がどう対応するのか、荷主がどう変わるのかを注視しておくことです。
期待はしています。でも、期待だけでは現場は変わらない。それもまた、30年走ってきて知っていることです。

